絶対読んどけな漫画を紹介パート1
シンプルに、自分がしょっちゅうおすすめしてしまうほど好きな漫画5つを紹介します!パート1だけどパート1で終わるかもしれません。好評ならパート2作ります。多分。
表紙は好きなやつを選んでいます。
早速紹介するぞ………!!!

全16巻
絶対読んどけ。
宇宙飛行士を目指す少女・アスミが主人公の物語。
アスミがまだ幼い頃、"獅子号"というロケットが発射後に住宅街に墜落した事故で、お母さんがアスミを守って亡くなってしまうという、開幕からあまりにも悲しすぎるスタートを切る。これだけに留まらず、このどこかノスタルジックで素朴な絵柄にそぐわないほど、割とずっと悲しい話が連続していく。
獅子号墜落の真相をアスミが知らなかったが故に、実は色んな人が不幸であった事をアスミが知る場面では、あまりにも胸が苦しくなり、読むのをやめようかと思ってしまう。この時点でまだ2巻である。
それでも一緒にいる友達や(友達も基本不幸だが)、自分を応援してくれる父親、学校の先輩、周りの大人たちに支えられつつも、宇宙飛行士を目指してひたむきに前に進み続けるアスミの勇気に、読んでいる側も元気づけられる事だろう。
割と印象的な台詞というか、名言も多い漫画である。
「空が大きく広く見えたのは、お嬢ちゃんぐらいの歳の頃だけだ。今しか見えない景色を大切にするんだぜ。」
っていう、爺ちゃんの台詞が好きです。

全34巻
絶対読んどけ。
主人公は高校に入学したばかりの、東島旭という眼鏡の女の子。中学までは美術部で、運動などからっきしだったが、珍しく存在している"薙刀部"の見学にて、先輩の凛々しい姿に惹かれ、何となく部に入って薙刀を始める事になる。
スポーツ漫画の中でも実は珍しいが、主人公に全く才能も運動神経もない状態からスタートする。有名どころのスポーツ漫画は、スラムダンクの桜木花道しかり、アイシールド21の小早川瀬那しかり、未経験ながらも何かしらの才能を秘めている場合が多い。
しかし、あさひなぐの東島旭に関しては、別に才能も運動神経もない。想いが対立するライバルの存在や、目指したい先輩の姿から、強くなりたいと願うようになり、ひたむきに努力を重ねて、とあるきっかけで覚醒するのが面白い。そのきっかけも元々持ってた才能ではなく、努力が噛み合った結果であるのがアツい。
この物語のクライマックスである、某高校との団体戦が見どころである。さまざまな登場人物との関係性も噛み合いつつ、綺麗に終わる。本当に綺麗に終わる。34巻とちょっと長いけどオススメです。
ちなみに好きなシーンは、初の公式戦で怖くて泣いてしまう旭に対する顧問の先生の
「日頃のどんな努力も才能も、この線(コート)の内側には入れない。 持っていけるのは、自分の心と体だけよ。 弱ささえ置いていく事ができるわ。ここはそういう場所なの。」
です。この漫画も印象的な台詞が多いなぁ。

全23巻
絶対読んどけ。
殷から周にまたがる中国の神話のお話。実在の人物もいるが、基本的には仙人たちの魔法合戦だと思っていい。鬼滅の刃と同じ巻数。
主人公の太公望(この人も一応実在)は、師である崑崙山の教主・元始天尊により"封神計画"を伝えられ、リストにある妖怪仙人などを次々と退治し、封神(封神台という場所に魂を送る)させていく。しかし、この封神計画では、味方の仙人や歴史上の人物も封神されていた。不穏ながらもその実態は物語の中で解明されていき、真の"封神計画"とそのバックグラウンド、そして"太公望の出自"までもが明らかにされていく。
妖怪仙人である妲己にほだされ、殷王朝の最後の王である紂王が悪政を行ったことにより、周に打倒されるまでを描いているが、キングダムのような歴史漫画ではなく、やはりあくまで仙人達の魔法バトル漫画である。
割と温められてきた登場人物が結構あっさり死ぬというか、ドラマティックに死ぬ事がないのが印象的。遺言を伝えるでもなく、息絶えた味方もさっさと封神台に送られてしまう。過去回想とかも無い(あるキャラもいるが)。"仙界大戦編"ではマジでめちゃくちゃ死ぬ。
90年代後半のジャンプ黄金期の一角。暗い話のようでいて、基本は平成ギャグファンタジーなので超読みやすい。楊戩(ようぜん)や哪吒(なたく)、天化(てんか)辺りが人気過ぎて、主人公であるはずの太公望の影が薄くて笑ってしまう。魅力的なキャラクターが多くおすすめです。死ぬかもしれないけど。
好きな台詞は普賢真人の
「何かを成すには誰かの犠牲がつきものなんだよ。それが大きな事であればあるほど犠牲の数も比例する。でも僕らは決して自分を棄てているわけじゃない。自分で決めた事だから同情も哀れみもいらない。ただ、悲しんでくれればいい。」
です。

それでも町は廻っている / 石黒正数(ヤングキングコミックス)
全16巻
絶対読んどけ。
推理小説が大好きな女子高生・嵐山歩鳥の、町内の人との関わりや日常を描いた作品。日常漫画の最高峰と言っても差し支えないと思う。歩鳥の天真爛漫だがどこか抜けているところが愛おしくて楽しい。ぐんぐん読める。
基本的に"色んな登場人物と歩鳥"の様々な軸の話があり、一つの軸が他の軸と絡み合ったり、その軸だけの話だったりと、それぞれ単話完結で物語が進んでいく。
日常の切り取りが非常にうまく、初めて起きたまま日付を跨いだ時に思う事とか、印象的な事しか記憶にないから前後の記憶がちぐはぐになる事とかの表現が実に的を射ている。読んだらわかる。
他にも"時系列シャッフル"など、読み返したくなる仕掛けがある。歩鳥の高校生活の3年間を描く今作の中で、掲載される話の順番と、時系列が関係なく収録されているのである。
巧妙なのは、未来の話の後に普通に過去の話が来たりする訳で、「この間先輩がうちに来た時に指輪置いて忘れてったじゃないですか〜」の台詞がある話のしばらく後に、先輩が指輪を忘れる話を入れてくる。しかもさりげなく忘れていくので、あぁここで忘れたんだ、と何回か読み返して発見する事になる。
そして、何と言っても最終話の後のエピローグである。時系列もバラバラ、いろんな軸もあるこの物語の落としどころが、一体どこに落ち着くのだろうと注目していたが……読んだ後、本当に感嘆したし、こんなにじわじわ来るタイプの大きな感動も、他には無いなと思った。エピローグだけ読んでも感動できないので、ぜひ16巻まで読んだ上で読んでみてほしい。そしてきっと、また読み返したくなるはずだ。なので買うのをオススメします。
一旦2巻まで読んで合うか判断するのが良いかも。なぜかは分からないけど、あんまり女子ウケはしない印象です。本当に何故だろう。
好きな台詞というかシーンは、有名だけど、
これです。

チハヤリスタート! / たけうちホロウ(FUZ COMICS)
(2025.8.28現在)2巻まで。
絶対読んどけ。
まさかの現在進行系で連載中の、しかも始まったばかりの漫画を紹介したい。
物語の主要な舞台は2020年のインターハイ、陸上女子100mである。2020年という時点で察しが付くかもしれないが、コロナ禍でインターハイもオリンピックも開催されていない。最近この"2020年に青春を奪われた高校生"を題材にした作品が、流行と言ったら悪いけど、急に多くなってきたように思う。(公開中の映画「この夏の星を見る」もそうだったはず)
同じ中学でライバルだったチハヤ(主人公)とミオが物語の軸となる。全中での100m決勝では、個人としてミオに軍配が上がり、同じチームメイトとしてリレーで全国1位になった。その後、2人は高校3年のインターハイの舞台で、決着をつけることを約束し合う。この2人の関係性も、悟空とベジータみたいなライバル関係で非常に見ていて気持ちが良い。
2巻まででは、この2020年を踏まえた未来の主人公達の、陸上を通してのリスタートが描かれている。インターハイ中止からうまくいかない現実を相変わらず生きている皆が、もう一度スタートに立ち、過去に決着をつけ、リスタートしようとしている。皆が"2020年"に特別な想いを抱えているからこそ、リスタートがどんどん彩ってきていて面白い。
にしても……まさか2巻までがプロローグだとは思わなんだ。
2020年にインターハイが開催されない事実がある為、約束の舞台で最強のライバル達と競うことを夢見ていた少女達の高校時代の頑張りの記憶が、非常に虚しく、もの悲しく映ってしまう。
今のところ好きな台詞は
「ミオと出会ってからいろんな夢を見た。
ミオより背が高くなってる夢。ミオより人気者になってる夢。ミオより良い点を取る夢。
ミオの背中を追いかけて走る夢。
でも、夢でミオを追い抜いたことは一度も無かった。」
です。
気に入りそうな作品はありましたでしょうか?
この中で一番おすすめなのは?と聞かれたら甲乙付け難いながらも"それでも町は廻っている"です。正直それ町の紹介だけ書いた後めちゃくちゃ削ったので、それ町だけで記事ひとつ書けたと思う。
皆のおすすめも教えてくださいね!
ではまた!
MBTI診断で主人公になるのは何故かちょっと嫌だ
人生は伏線回収の連続だと思う。
自分の人生も、今思い返せば伏線回収の連続だった。
まあ伏線回収というか、どっちかと言うと「後から考えれば辻褄が合う」ような事が多い。
国民的バスケ漫画・スラムダンクの中に、僕が好きな伏線回収……というかこれも辻褄合わせかな、というようなシーンがある。
主人公の桜木花道は当初、片想いしている赤木晴子から「バスケットはお好きですか?」と聞かれ、未経験だが気を引く為に「大好きです!」と応えて、バスケを始める事になる。
勿論、未経験だから"大好き"というのは嘘ということになるのだが。
その後、ライバルとの切磋琢磨など、練習を重ねる内に、桜木花道は才能を開花させ、やがてバスケに夢中になっていく。
物語も後半になった頃、試合中に応援席にいた赤木晴子の両肩に手を置いた桜木花道は
「大好きです。今度は嘘じゃないっす。」
と伝えるのである。
おいおい、バスケの事なのにそれじゃ告白みたいになっちゃってるよ〜!??!?というところも含めて、とても好きなシーンだ。
自分の今までの生き方を思い返して分析してみると、今の自分を構成していると言える大きな要素がいくつかある。
高校1年の後半、クラスでハブられた。
高校の時に陸上部で、途中でケガをした。
育った環境の治安が悪かった。
ヤンキーみたいな女の子と大学の頃まで一緒に遊んでいた。
社会人になってから、沢山の同期と仲良くなれた。
会社の女先輩を好きになった。
親戚の中では、歳の近い世代で自分が一番年上だった。
そして、何度かそこかしこで語っていることだが、今でも大きな影響を自分に及ぼしている出来事がひとつある。
20歳の頃にめちゃくちゃ好きだったバイト先の職員のお姉さん。とても仲良くなって、そのまま好きになった。
とある職員の人からも「いい感じじゃない?応援するよ」とか言われた。
その後しばらくして、応援するよと言っていた男性職員と、お姉さん職員が授かり婚をした。
あの時僕は学生で、既に社会人をやっている2人だからとすぐさま納得し、「結婚おめでとうございます」とお祝いの言葉を口にして頭を下げながら手を引いた。しかし、この頭を上げた瞬間に目から涙がこぼれ落ちると思って、頭を下げたまま、2人の前からフェードアウトしたのだった。
内容はほんとはもうちょい酷いのだが、長くなるので今回は割愛する。今現在(2025年)から4年前に旦那側がアンジャッシュ渡部と全く同じ事をし、離婚して即再婚した事により、数年越しにまた僕が悔しい思いをするという素敵なエピローグ付きだったが……。
ともかく20歳の時のこれが大きなきっかけで、社会人になってすぐぐらいまで、僕は女の人自体、また女の人との関係性に苦手意識を持っていた。
20歳でまだ未熟だったからだろうか、どうしても大きなカテゴライズをしてしまい、女の人自体が信用しづらくなってしまったのだった。
当時は無意識だったものの、自分の周りの人に対しても大きく影響を及ぼしていたな……と最近になって気付いた。
小学校から一緒で、大学の頃まで遊んでいたヤンキー風の女の子がいた。
実は僕の事が好きだったのかもしれないな……と、自分で言うのも恥ずかしいが、今になって思う。
2人きりで遊ぶこともよくあったし、わざわざ「デートしよ〜」って言葉にして声をかけてきた事もあった。
ところがいつからか疎遠になった。いつ疎遠になったんだろうと考えると、やはり先ほどの20歳の時の出来事に結びつく。
20歳から女の人に苦手意識を持ってしまった僕は、なるべく女の人と話す機会を避けていた。
よく覚えていなくてただ罪悪感だけがあるが、もしかすると強い言葉で、拒絶していたのかもしれない。うっすらと拒絶をした記憶だけが残っている。もう一緒には遊べないって。
20歳からだ。20歳の出来事を発端とした女性に対するコンプレックスが、まだ今の僕にすらあると思っている。
どうしてあの時ああなったんだろう、あの人と疎遠になったんだろうなど、後になってから「あぁ、あの時こうだったからか」と突然辻褄が合う瞬間がある。
高校1年の後半、クラスでハブられたから、悪く言えば八方美人になった。
高校の時に陸上部でケガをしたから、その悔しさで今もまだ走り続けている。
育った環境の治安が悪かったから、見た目がいかつい人に偏見はないんだけど、ギャルはキレたらカツアゲすると思っている。
ヤンキーみたいな女の子と大学まで一緒に遊んでいたが、女の子との関わりが苦手になって、疎遠になっていった。
社会人になってから沢山の同期と仲良くなったが、病気が原因で同期皆に先を行かれて心も病んだ。
会社の女先輩を好きになって、女性への苦手意識も和らぎ、優しく振る舞うようになれた。
親戚の中では、歳の近い世代で自分が一番年上だったから、お姉さんとか甘えられる存在に強い憧れを抱くようになった。
今の自分が出来上がっているのは、周りから良くも悪くも大きな影響をいくつも受けながら変化したからだ。
その変化の理由に気づくのは、それからずっとずっと先のこと。今の自分と辻褄が合う事に気づきすらしないことだってある。
そして自分自身も、周りに大きな影響を与えてしまうことがある。
同期「お前、入社した頃女の子が苦手で〜とか言ってたよな」
会社の同期と飲みに行くと、必ずこの話になる。
22歳の頃……う〜ん2年しか経ってないから、まだ20歳の時のことを引き摺ってんだな、とわかる。
同期「『僕は絶対結婚とか出来ないと思う』とも言ってたから、俺は結婚したり家族が出来ても、お前と話すのは毎月絶やさねえようにしようと思ったんだよ」
同期はもう結婚もしたし子どもも生まれたが、未だにこうして休みの日が合えば飲みに行く関係性だ。奥さんや子どもはいいの?とも思うが、許可も取ってるらしい。
入社式で出会ってから数年、互いに独身の時は、休みの日が合えばすぐさま会い、一緒にふざけまくっていた。
永遠に続くと思っていた時間は、20歳の頃の出来事を発端として、結局は今ここにまで繋がっている。何とも恐ろしい影響力である。
嫌で嫌でしょうがなかった、大きく落ち込む事になった、トラウマになった……なんて出来事も、優しい人がいてくれたら、素晴らしい出会いを引き寄せる事にもなるのだろう。
今の僕はもう女の子が苦手という訳でもないしな。
僕「女の子が大好きです。今度は嘘じゃないっす。」
同期「桜木花道みたいに言うな。」
僕らはあの時と同じ、弾けるチューハイの泡のように爆笑した。
唯一人 / 爆弾ジョニー
正解だけが答えじゃない。
つい昨日まで半袖を着ていた気がするのに、もう厚手のパーカーを着るような季節になってしまった。一年はどんどん短く感じるようになり、もはや「クリスマスってもう過ぎた?」と聞く頃には年すら明けてそうだ。
僕「なんか悩んでんの?最近顔色悪いし」
元気のない会社の同期に、車のハンドルを握りながら僕は尋ねる。
同期「実は……」
そもそもこの同期を僕は「スーパー銭湯のサウナでも行こうぜ」と騙して県外までドライブ旅行に連れてきてるので、スーパー銭湯行こうとしたら拉致されて……とか言われたらどうしようかと思った。
元気のない同期の事の顛末はこうだ。
同期には3年くらい付き合っている彼女がいた。もちろん結婚する前提でだ。
その彼女が、心臓の病気でペースメーカーを入れることになったらしい。
彼女は別に、心臓が弱いということは今まで気づいていなかった。めまいや息切れが起こるようになり、病院で心臓の弱さを指摘されたらしい(詳しくはよく分からないが)。
そうなるとこれから、子どもも産めなくなるということになる。万が一大量に出血してしまえば死に繋がる可能性も高い。
つまり、同期とこれから結婚したとしても、子どもはいない家庭を形成するということだった。
同期は今、その選択に迫られている。
僕「めちゃくちゃ重い話じゃねーかよ」
僕はてっきり、納豆の醤油とかのマジックカットってピリリとうまく切れずに大体ぐにーんって引き伸ばしちゃうよな、とかそういう悩みかと思っていた。
正解は分かっているんだ、と同期は言う。
同期「『子どもが産めなくなったとか関係ない、それでも俺はあなたを愛しているから。結婚しよう。』が正解だろう」
僕「おお!めちゃくちゃカッコいいじゃん!」
同期「でも俺……子ども好きでさ」
僕「まあ……うーん」
僕たちはまだ28歳だ。インターネットじゃおっさんおっさん言われるようになったけれど、社会から見ればまだ若い。
僕だって別に彼女がいるわけでもないし、同い年の同期もこれからまた新しい出会いを求める事だってできる。
しかし同期の心情からすれば……察するにあまりあるが、『今の彼女が子どもを産めなくなったから別れる』という選択にもなるという事だ。
その選択は、誰がどう見ても不正解だろう。
同期「……まあそもそも、かなりメンヘラだから合わなくて別れたかったんだ既に」
僕「いや結局それが理由なのかよ」
同期「それが理由だけど、彼女や周りはそうは行かないだろう。向こうの親にも会ったことあるしな……」
僕「……」
少し赤く色づき始めた山肌を右に見つつ、僕は左にハンドルをきる。
当然、僕はそのような状況になった事がないから分からない。
僕が伝えられるのは、何だかんだ6年も同じ会社にいて、こうやってプライベートでも日が合えば遊ぶような、互いの誕生日を祝うような、そんな関係になった友人として思うことだ。
僕「……別にいいんじゃないか?自分に正直に行けば」
同期「でも、彼女も傷つけるし、周りの人にも何と言われるか……」
僕「気にするなよ、僕だってずっと正解の道だけ進んできた訳じゃないし、何なら今までだと8:2で失敗の方が多いわ」
ずっと正解だけを選んで生きてる人間などこの世に存在しないだろう。誰もが数回は「ありゃ失敗したな……」と思う瞬間が必ずある。大盛りにしなきゃよかったな、とかそんな事が絶対にある。
僕「正解だけが答えじゃねえよ」
同期「……そうだな」
僕「てか別に失敗じゃないしな。自分の人生なんだから、自分に正直に生きてないと、正解を選んだとしても結果上手くいかなくなりそうだし。」
現代に繋がる科学の革新的発見も、こうするとうまくいかなかった、こうすると失敗する、という失敗経験を土台にして成り立っている。
答えがたとえ正解じゃなくても、次に活かせば良いし、次は成功するように生きれば良いのではないかと思う。
助手席で頭を抱えて悩む同期を尻目に、カーナビからは「山形県に入りました」という声がした。
結局、同期は彼女と別れた。
あまり詳しくは聞いていないが、その別れは壮絶なものであったらしい。しばらくは顔がさらに青ざめていた。
もし、この事がインターネット上でネットニュースになったとしたら、「子どもが産めなくなったと知った途端別れる男」など、確実に炎上しただろう。
しかし、僕らはこうなった経緯を知っている。
炎上しても仕方ないよね、と思えるだろうか。庇ってしまいたくはならないだろうか。
このまま気持ちを隠して結婚して上手くいった?理由は別にもあるというのに?2人の関係の積み重ねの結果なのに?と思うだろう。
インターネット上で炎上している事も、そんな事の連続なのではないかと最近思う。
表面的な部分だけを見て、その経緯にすら触れず「子どもが産めなくなったと知った途端別れる男」を叩くだろう。
そして普通に考えれば〜などと正解を語り、承認欲求を満たし、気持ちよくなる。
画面の奥の実在の人物の、悩みや葛藤など知りもせずに……。
まあ、SNSでの炎上なんてそのSNSを見なきゃいい話なのかもしれないけど。
2年後。
僕たちはもう30歳になった。30歳になったら年明けには「クリスマスってあった?」となると思いきや、もう成人式が行われていた。
僕「最近はどうよ、調子は」
同じように僕は同期に尋ねる。今日こそ普通にスーパー銭湯に向かっている。雪が降りすぎて遠出したくなくて。。
同期「言ってなかったけど、俺結婚するよ」
僕「え!?今のあの彼女と!?」
同期「うん」
そう言う同期の顔色はとても良かった。今の彼女とは、もちろん前に別れた彼女とは別の人である。
良かったなあ本当に良かったなあとか、僕にはそんな事しか言えなかった。
あの時の答えは正解じゃなかったかもしれない。僕にも分からない。
でも確かにあの時沢山悩んで、答えは出した。
それが今に繋がったのなら、それはもう本当に良かったなあとなる。こんなに素敵な事はない。
僕は友人として、彼の選択に自信を与えられるよう背中を支え、時には押すというだけだ。
僕「じゃあもう、悩みからは解放されてさっぱりしたんだな」
同期「いや〜、それでも結局悩みはあるよ」
僕「あらそう?今度はなんだよ」
結婚に関しての悩みだったら僕は結婚してないしわからんよ、と言うと、同期は重い口を開く。
同期「カップ麺の液体スープのマジックカットって、なんかピリリとうまく切れずに引き伸ばしちゃうよな」
それはそう、と僕は声を荒げた。
INTERNET YAMERO / Aiobahn +81 feat.KOTOKO
ようしたもんだ
4月7日 20時14分 妹から電話がかかってきた。
妹「もしもし」
僕「はいはい、どうした?」
妹「あのね……」
僕「うん」
妹「………」
僕「………」
妹「………」
僕「……あ〜、わかったよ。大丈夫だから。」
電話口からは鼻をすする音が聞こえ、息を呑むような、言葉につまるような雰囲気が感じられた。
僕「親父にも伝えとくわ」
妹「うん……」
僕「まあなんと言うか……良かったな、最期を看取る事が出来て」
ばあちゃんが今入院している病院から転院するという事で、妹と母親はばあちゃんのいる病院に、転院の手続きやら荷物整理やらをしに行っていた。
容態が急変したのは、ちょうどそのタイミングだった。
妹からは「このままだと明日の朝には息を引き取るかもしれないらしい」という連絡を少し前に受けていた。だからすぐにわかった。
ばあちゃんは、あともう少しで、6月で90歳になるところだったが、89歳でこの世を去った。
妹は最期に立ち会い、その瞬間も見届けていた。僕に電話するまでは泣かなかったが、何も知らない僕に「ばあちゃんが亡くなった」という事を伝えようとした瞬間、あぁ本当に亡くなったんだという現実を感じて、電話口で急に涙が溢れてしまったという。
うちのばあちゃんは佐渡島の生まれだ。
89歳なので、普通に第二次世界大戦もリアルタイムで経験しているし、その記憶もある。
「金山に労働者として連れて行かれる人の中に、手首を縄で縛られて、日本語じゃない言語を話している人達がいた」とか、それヤバくね?と思うような話をしてたりもした。
玉音放送ももちろん聞いている。日本が戦争に敗ける事が本当に信じられなかったと語っていた。
そして、僕の妹はそれはもう超がつくほどのおばあちゃん子だった。
僕は5歳まで親の転勤で青森にいて、両親が働いている間は友達の親に預けられていた。
実家のある新潟へ転勤が決まり、まだ産まれたばかりの妹のことは、共働きの両親の代わりに母方のじいちゃんとばあちゃんが面倒を見ると言ってくれた。
父方のじいちゃんは既に亡くなっていて(何なら転勤のきっかけになった)、父方のばあちゃんは普通にまだ農家として就労していたのもあり、僕らの面倒は見れなかった。
しかし、新潟に転勤してまもなく、母方のじいちゃんも亡くなってしまった。
だから妹が生まれてからずっと、ばあちゃんは妹の面倒を見ていた。
僕はその頃学校にも行っていたが、妹はばあちゃんにべったりで、幼稚園の送り迎えも、後に小学生になってからもべったりで、何より仲良しだった。
正直、妹の一番の友達はばあちゃんだったんじゃないかとも思う。
ばあちゃんは、僕にもだけど、すぐ「ようしたもんだ」と褒めてくれた。
ようしたもんだは佐渡弁で「よくやった!」みたいな意味だ。
テストでいい点取ったり、上手にあやとりが出来たり折り紙を上手にできたり、全部「おぉ〜ようしたようした」と妹を褒めていた印象がある。
妹はばあちゃんが大好きで、中学生以降も「今日はばあちゃんの家に泊まりたい!」と、近くのアパートに暮らしていたばあちゃんの所に一人で泊まりに行ったりしていた。
僕は最期の瞬間には病院にはいなかったけど、妹は最期の瞬間に立ち会った。
ずっと「ばあちゃん!わかる?」と声をかけ続けていたらしい。
その最期は、本当に"息を引き取る"という言葉が似合い、苦しむ様子もなく、呼吸だけが小さくなっていったらしい。ただ心拍の数値は下がっていき、そのまま0になったとの事だ。
病院から帰った後の妹は、茫然自失といった感じで、突然泣き出して、ぼーっとして、また泣き出すというような事を繰り返す状態だった。
「夢を見たんだ、誰かのお墓参りをする夢。そこには(母方の)死んだじいちゃんもいたのに、何故かばあちゃんだけいなかったから、ばあちゃんのお墓参りなんだってわかった。」
そんな夢を見たから亡くなっちゃったのかな……もうすぐ90歳だったのに、それまで生きていて欲しかった、と妹は言って、まだ静かに泣き出した。
何と声をかけたらいいかわからず、僕は背中を擦り続けることしか出来なかった。
ばあちゃんが妹にかけた言葉で印象的な言葉がある。
それは妹が学校に行きたくないとぐずった時だ。
「出かける時は雨が降っていて、出かけたくないなぁと思っていても、帰る頃には晴れてる。人の気持ちもそんなもん。朝出かける時には嫌でも、帰る頃には嫌じゃなくなってる。だから行ってみなさい。」
それを妹は今でも覚えているらしい。何なら僕も覚えている。ばあちゃんは僕らに大切な考え方を残してくれた。まあ「朝ドラの受け売りだけどね」って言ってたけど。
そんなばあちゃんが、僕に生前本当に最後に残した言葉は
「生きるのはていそ(大変)らっちゃ」
だった。
生きるのは、本当に大変だ。
本当に大変なんだ。
先日、僕の友達にも癌が見つかって、ステージによっては半年以内に亡くなるかもしれないというような話があった。
友達には家庭があって、子どももいた。僕なんかは同い年でも失敗ばかりでくだらない人生を生きてると思っていたし、僕の命を代わりにくれてやりたい気分でいた。
だけど、そんな気分でいたちょうど次の日、職場で僕の話をしている上司たちの会話が聞こえた。
「あいつ、俺の顔見るだけで笑うんだよな。注意した方がいいぞ。」「いや〜無理ですね、私さささんの事大好きなんで。」「そうか、いや実は俺も大好きなんだけどよ。」
そんな会話が本当に聞こえてきて、思わずその場を離れ、職場の中でも誰が使うんだよここみたいな場所にあるトイレの個室にこもって頭を抱えた。別にうんことか出ないのに。
何なら泣きそうにもなって、どんな顔したらいいか分からなくなっていた。
人が一人いなくなることは、ただ人が一人いなくなるだけのことじゃない。
自分も、自分がいなくなったら悲しむ家族や、友人や、同僚や、インターネットの奥の人達が、数え切れないほど思い浮かんでしまう。
僕もいなくなることは出来ないし、誰かの代わりになることは出来ない。そんな事を思った。
ただ、結果的に友人の癌は早期発見だったようで、一命は取り留め、今も元気にしている。本当に良かった。
生きるのは本当に大変だ。
優秀だったら、周りから期待という名のプレッシャーをかけられてしまう。
物覚えが人より悪かったりすると、自分は普通の事も普通に出来ないのかと自分を責めて苦しんでしまう。
失敗したり、喧嘩したり、努力が報われなかったり、行きたくない予定があったり、未来に漠然とした不安があったり、自分は仲良いと思っているけど相手からは嫌われてるのかなと疑ったりしてしまう。
それでも、励まし合える優しい友達がいて、守りたいと思える温かい家族がいてくれたから、僕らは明日からも生きていこうと思えるのだろう。
それはばあちゃんの生きる時代よりも、ずっとずっと前から同じであると思う。
そして、人が一人いなくなる事は、ただ人が一人いなくなるだけの事じゃない。
色んな事を僕に、妹に、母親に、数え切れないくらいの人に与えてくれたばあちゃんが亡くなったのは本当に悲しいけれど、僕もこれからいなくなろうとしないで、色んな人に色んな事を与えていけるように、前を向いて生きていきたいと思う。
そう思いながら、明後日の葬式で僕はばあちゃんを見送ることにする。
でもまあ多分感謝しか浮かばないだろうな。忘れてしまわないように、一応ここにも今の思いを書くか。
最後らへんは入院しててずっと外に出られなかったけど、今は自由に外に出られているだろうか。
今、暖かくなってきて、一番桜が綺麗に咲いてるんだけど、見れたかな。
じいちゃんと一緒に僕らを見守っててね。
ありがとう、今まで生きていてくれて。
ようしたもんだ。
雪の降るバス停から始めた推し活
推しとは一体なんだろうか。
「先輩は私の推しなんです!」
職場の後輩である彼女は屈託なくそう言ってくる。
「そういうのって、アイドルとか芸能人に対してじゃないのか……?そもそも君は結婚もしてるし」
「いや"推し"はそういうの関係なく、"自分の推したい人"なんですよ」
まあ確かに、応援したい人や憧れの人ってのは"自分が勝手に好きになった人"という印象だから、関係ないのかもなとも思う。
自分が"推している人"はいるだろうか、と考えた時に、真っ先に浮かぶ人がいる。
のん(能年玲奈)さんだ。

彼女は僕と同い年で、1993年7月13日生まれ、兵庫県の出身である。
自分でもマジかよと思うけれど、かれこれ12年くらいは推している事になる。僕の人生には欠かせない人だ。
今から12年前の冬、僕は17歳のどこにでもいる高校2年生だった。
僕の住む新潟は、冬はずっしりと重い雪が降る。しんしんと高く積もる雪の中、僕は部活を終え、陸上部のウィンドブレーカーを着て、バスを待っていた。
都会のバスが何本走ってるかとかはよく分からないけれど、新潟の片田舎ともなればバスは1時間に1本ほどだ。しかも学校から1番近いバス停から帰るとなると、周辺には何も無いしやることもなく、とにかく待つしかない。
ウィンドブレーカーでは凌げないような寒さの中、自分の吐く息だけが白く、暖かかった。
待ってる間、とりあえずガラケーでネットニュースを眺めた。
そのネットニュースの中に、のんさんのインタビュー記事が紛れていた。これから女優としても活躍していきたい、というような内容だったはずだ。

その時の写真がこれだったことも覚えている。
僕と同い年の有名人なんて、神木隆之介さんや、志田未来さんみたいな子役を始め、渡辺麻友さんとか、アイドルもまあまあ出現していた。
今では、福士蒼汰さん、はじめしゃちょーさん、武井咲さん、フワちゃん、新川優愛さん、吉田正尚さん等、93年生まれが多岐にわたって活躍している。
しかしこの時、自分と同い年で「17歳で、これからデカい夢に挑戦するぞ!!」みたいな事を言う人を一度も見た事がなく、何だか凄くのんさんが輝いて見えた。まあ既にモデルとして活躍はしていたみたいだけど。
僕はというと本当にありふれた、ただただ普通に高校そして大学に進学するコースを歩んでいた。
僕とは全く違う分野に挑戦しようとしている、今日初めて知った同い年の彼女が、これからどんな風になっていくのか。
不思議な事だけれど、その将来に物凄く引き込まれた。
というか、そもそもその時ののんさんの輝きが尋常じゃなかった。散りばめられた星空の中で、何かめちゃくちゃ輝いてる一等星のようだった。
「この人は将来、僕の人生に多大な影響を与える人になるな」とすら思った。
そんな事を考えていたら、バスが到着する。
僕も、彼女も同じ17歳だ。これからどんな人生を歩んでいくのか誰にも分からない。2人とも素晴らしい何者かになれるかもしれない。
彼女を応援する事で、自分も前進していこう。
そんな事を思っていたら、乗り込んだバスの扉が閉まり、積もった雪を踏みしめながらもそもそと前進した。
1年後、僕は高校を卒業する事となった。頑張った甲斐あって、無事に大学に進学することになった。
買い換えたスマホの画面に映されたネットニュースには、知った顔があった。
のんさんがカルピスウォーターのCMキャラクターに選ばれたのだ。驚愕し、膝から崩れ落ちた。
正直、1年前に見たネットニュースでは、苗字の珍しい全く知らない女優志望の女の子ぐらいの感じだった。
しかし、誰もが知っているカルピスウォーターのCMキャラクターに選ばれた。並の努力じゃ到底無理だろう。
「彼女も頑張ってるんだな」
不思議と自分にも活力が湧いてきた。
その更に1年後、のんさんは朝の連続テレビ小説"あまちゃん"の主演に選ばれる事になる。
ここまで来るともう凄いとか言うレベルじゃない。何なら僕が大学に入って、ダラダラと表面張力の実験とかをしている時に、彼女は凄まじい成長を遂げていた。
オーディションを勝ち抜いて主役に選ばれるというのは、運も多少あるかもしれないが、何より彼女の努力の賜物だろう。
自分も頑張らなければ、とまた強く思えた。
あまちゃんは毎朝ちゃんと見た初めての朝ドラだったけど、衝撃的な作品だった、
正直自分の推しが主役をやっているだけでもう最高なのだけれど、田舎出身の自分から見ても不自然でないと思える田舎の解像度の高さ、内容の濃さ、ギャグの面白さ、もはやこの作品自体が自分のどストライクだった。
ほぼ毎朝のように元気を貰ったし、あまちゃんによってのんさん自身も一気に国民的な女優となった。
僕は、雪の降りしきるバス停で彼女を見つけた時の自分を思い出す。自分の吐く息だけが温かかったあの時から、僕はとんでもない人を応援し始めてしまった。
彼女の快進撃を見てそう思った。
そして僕は大学を卒業し、会社員となった。
自分は、まあ何と言うか、特に何者にもならなかった。全然普通のサラリーマンになった。
それにしてもやはり社会というのは厳しい。小学生から始まって16年間学生をやっていた自分も、社会に打ちのめされる事になった。
落胆する日々が増えた。
のんさんも当時、露出が極端に少なくなった。色んなニュースが飛び交っていたし、色々あったのだろう。
休みの日は何にもやる気が起きず、布団から起き上がれない。
そんな日々でも、時々雪の降るバス停を思い出す。
あの時僕は17歳で、自分はきっと素晴らしい何者かになると思っていた。
しかし現実はそうはいかなかった。
未来に様々な希望を抱きつつ前に進んでいたあの時の自分の影が、時間が経つにつれて凄く長く、遠くなっていた。
もうこんな時間か、でも起き上がれないな。
スマホに映るネットニュースにも、のんさんの名前を見ることは無くなっていた。
どういう巡り合わせなのか、それとも奇跡か、僕が就職した年の誕生日にのんさん主演の"この世界の片隅に。"が公開された。
2016年11月12日、僕の23歳の誕生日だ。
もちろん見に行った。新潟は公開されている映画館が少なく、少し遠くの映画館に行った。
そもそも、のんさんが何かを演じるという事がとても久しぶりの作品だった。
映画が始まると、すず役ののんさんの声が室内に響き渡る。
「おぉ……!のんさんだ……!!」
のんさんが演じている声を聞くのは久々で、何だかとてつもなく感動した。
しかし、それよりも凄いことがある。
映画が進むにつれ、最初は「のんさん」だと思っていた声が、途中から「すずさん」になっていた。
どういう事かと言うと、その役の声に当てはまり過ぎて、もはや"のんさんの声"じゃなく役である"すずさんの声"としてその声を認識していた。
僕らは太平洋戦争の時代に生まれていないけれど、まるでのんさんの演技はその時代を生きている人であるかのような、そんな迫力があった。
映画は大ヒットし、一年以上上映された映画館もあった。
僕は以前に見た"あまちゃん"の中でも、印象的なシーンがある。
記憶の中のシーンなので曖昧だが、あまちゃん内でトップ女優である鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)が、アイドルであり女優志望の付き人である天野アキ(のん)に語りかけるシーンがあった。
「今、日本で天野アキをやらせたら、あんたの右に出る女優はいません。だから、続けなさい。向いてないけど続けるって言うのも才能よ。」
"天野アキ"とは、のんさんが演じた役だ。
これはドラマのシーンなので、天野アキ自身を演じられるのは天野アキという女優以外ない、ということになる。
このドラマはアドリブも多く、だからこれがアドリブであったかどうかは僕にも分からない。
でも何だか、天野アキを演じられるのはのんさん以外にいないな、とも思えるのだ。
すずさんの声がいつの間にかのんさんからすずさんになっていたように、彼女はいつも全力で役に憑依している、そんな印象がある。
「こんな輝いてる人、多分いつまでもほっとかれないよな」
と、僕は今でも信じて疑わない。
推しとは一体なんだろうか。
職場の後輩は「自分の推したい人」と言っていた。おすすめしたい人という事だ。
俳優でも、アイドルでも、2次元でも、インターネットの人でも、身近な人でも何でも良い。
その人を応援したり、好きでいたり、ライブに行ったり、配信を見たり、作品を見たり、実際に関わったり、何でも良い。
自分が素晴らしいと思う人の輝きを見て、「良かったねえ」と心から思うことで、その感動は自分の活力に変わっていく。
誰かを推す活動は、きっと自分のパワーになる。
12年前に雪の降るバス停で僕が推し始めた人は、今も映画、音楽、芸術、広告、YouTubeと、創作あーちすととしての活動に大忙しなご様子だ。
その動向をチェックする度、人前でへこたれず、悩みも全く言わず、頑張り続ける彼女に非常に勇気を貰っている。
僕も今、まあ仕事で必要だからだけど、とある免許を取るためにずっと頑張っている最中だ。
そんな頑張っている僕の姿を見て、ボンクラな僕のことも後輩は「推し」と言ってくれたのかな、と思う。
「推されたからには、僕も頑張らないとなあ」
ずっと見続けた輝きを追うようにして、僕だって今からでも何者かになってやろう。
足元から伸びた影が、前よりほんの少しだけ小さく近くに見えた気がした。
何とどんな偶然か、現在毎朝"あまちゃん"がBSで絶賛再放送中!
https://www.nhk.jp/g/blog/gc-134hcyfq1/
1週目の一挙放送は、今週の日曜(4/9)からあるのでまだ間に合うぞ!というか2週目からでもあらすじあるから全然間に合う!
ぜひとも見ておくれ〜〜〜!!
暦の上ではオクトーバー
これは僕が大学生の時の話になる。
稲刈りも終わり、そろそろ長袖を着ていないと肌寒いぞ、となってきた頃、僕らの長すぎた夏休みは終わりを迎え、大学では後期授業が始まった。
大学の学部棟のラウンジで角山君が「今日は当たる気がする」と言って自販機でコーヒーを購入したら本当に当たりが出て、でも僕はもう買ってしまっていた為、同じコーヒーを2本机に置いていた。買い間違えたようにしか見えない。
何の授業を取ろうか角山君と考えていると、同じ学部の同期、真田君が現れた。真田君は県外から来ている人で、こう言っちゃなんだけど見た目は完全にチー牛のそれだった。

チー牛
まあ見た目のことはどうでも良い。真田君は結構感覚が独特で面白い男だった。
授業をただサボっただけなのに、「仏滅だから調子が悪くて」とか言ったりした。
彼女が欲しすぎた為街コンに行ったが、誰とも話さずに帰ってきた。
かまぼこが大好きだが、かまぼこが何でできているのか知らないまま食べており、餅の一種だと思い込んでいた。
等、ほかにも色々と癖のある男だった。
僕と、僕がよく一緒にいた角山君とも普通に仲が良く、一緒にモンハンばかりする仲だ。
真田君「何でコーヒー2つあんの?」
角山君「何か当たるかも、と思いながら押したら当たった」
真田君「まじかよ……仏滅なのに。」
正直、真田君のその反応もおかしいと思う。関係ないだろ。
僕「ところで夏休みはどうだったよ。」
てっきり「何もねぇわ」と言われると思っていた僕らは、彼の「それがさぁ……」にすらちょっと驚いてしまった。
角山君「何かあったのか!?」
真田君「バイト始めたんだよね、夏休み中に。」
話を要約する。
真田君は夏休みがあまりにも暇すぎて、バイトでも始めようかと思ったらしい。接客などした事がなかったけど、逆に良いと思って、居酒屋のバイトに申し込んだ。
1度面接しただけで即合格し、ブラックだったら嫌だな〜とか思っていたが、初日に来てみると何と女の子の同期がいた。僕らとは違う大学の子であるらしかった。そして同い年だった。
その子と行動する事も多く、話し相手もいなかった為必然的によく話すようになった。すると彼女もどうやらモンハンばかりしている子のようで、夏休み中暇になったからと、全く同じ理由でバイトを始めた子であったようだ。
そして、バイト外でもオンラインでモンハンしたりして、夏休み中にどんどん仲が深まってきたそうである。
僕「さすがに嘘だろ、いつでも引き返していいぜ」
角山君「そんな夢みたいな話はあるはずが無い、というか最近見た夢の話してるんだろ」
真田君のいつもの調子からして、正直真田君の妄想をずっと語られているのかと思った。
真田君「本当だから!しかも、しかもだ、今度デートすることになった……!」
僕「何っ……!?」
角山君「デート……!?」
真田君「2人で出かけることになったんだけど、どうしたらいいかわからないんだよ……!!」
街コンに行った事もある男が言うセリフでも無いような気がするんだけど、いざデートとなると、自分の領域外になってしまうようだった。
何なら、向こうから「水族館行きたいよね〜。行かない?」と提案してきたらしい。僕、地元に住んでるのに地元の水族館とか行ったことないんだけど。いや……一緒に行く人がいなくて……。
ちなみに(当時の)大原櫻子さんに似てるらしかった。ここからは櫻子さんと呼ぶ。

大原櫻子さん
こうして僕らは後期の授業の計画などは後回しにし、一応イケメンでオシャレの筆頭である角山君を頼りに服を買いに行った。ユニクロだったけど、角山君にセンスがあり過ぎてかなり良い感じに仕上がった。というか普通にユニクロは良い。
角山君「成功するといいな、頑張れよ。」
僕「羨ましい男だ、報告待ってるぞ。」
真田君「でもデートの日仏滅なんだよな……。」
関係ないだろ。
まあ真田君は良い奴だし、話すと面白いし、きっと大丈夫だろう。成功するといいな、本当に心からそう思った。
結局櫻子さんとのデートは成功したとの事で、後日報告を受けた。
本当に楽しかったという。真田君のことをどう見てるかは分からないが、櫻子さんは真田君の話に沢山笑ってくれたとの事だ。デートの成功の報告が、僕らも何だか嬉しかった。
ここからしばらく進展らしい進展もなく、と思いきやデートは何回かしてたみたいで、でも普通に友達感覚で出かけているような感じらしかった。
僕「何かこう……恋人としてとか、そういう感じは向こうに無いの?」
真田君「正直、あんま感じられないんだよな……本当に友達って感じだ。遊ぶけど、進展もなく平行線が続いてるよ。」
正直、この2人付き合わねーかなとか僕と角山君は内心思っていたんだけど、押し付けるのもなぁとも思って、言わないでいた。
雪は降っていないが、芯から冷えるこの感じは、もはや冬と言っていいだろう。もう12月だ。
いつものように大学のラウンジで角山君とモンハンをしていると、真田君が現れた。
真田君はどう見ても元気が無い様子だった。ていうか、普通に体調が悪いのかなと思った。
角山君「体調悪いのか?休んだ方が良いぞ。」
真田君「いや……実はちょっと色々あって……。」
真田君曰く、櫻子さんと仲違いしたとの事だった。
詳しく話を聞くと、ここにきて「好きな人いるの?」と聞かれ、「いるぜ(君の事だけどな)」と返したところ、「私も気になる人が出来たんだ」と言われたらしい。
真田君はともかく、櫻子さんの「気になる人が出来た」って、誰の事なのだろう。
真田君の「いるぜ」は思いっきり櫻子さんの事だったが、櫻子さん側もそうであるとは限らない。彼らは既に昔から仲の良い友達みたいだった。
互いに好きな人がいる事を打ち明けただけで、それは仲が良い友達だからこそなのか、それとも互いに互いの事を……。
そんな煮え切らない気持ちを抱えたまま、真田君の家に櫻子さんが来た時に、全く拒まれず、そのままキスをしてしまったらしい。
僕「えらい展開やないの。」
角山君「結局、互いに心は通じていたのか。」
真田君「正直……俺もそう思っていたんだ。それが……。」
長いキスが終わって、目の前に櫻子さんがいる。とてつもなく幸せだった、かのように思えた。
櫻子さんは泣いていた。
驚いて真田君が「大丈夫?」とか「どうした?」と右往左往していると、櫻子さんが泣きつつも話し出した。
櫻子さん「私たちって友達だよね、でもこんなの友達じゃないよね。真田君、好きな人がいるって言ってたのに、こんな事をしてていいの……?」
帰り支度をした櫻子さんは、その後、「じゃあね」の言葉を最後に、振り返らず帰っていってしまった。
真田君は外まで見送ることも出来ず、重く閉まった玄関の扉の前で力なく途方に暮れた。
真田君「それが……3日前、4日前?の話だ……。」
僕「まじかよ。」
角山君「それっきり、何のやり取りもしていないのか?」
真田君「それっきりだ……連絡もしてない。」
僕らの中に沈黙が流れる。客観的に見るとだけど、正直互いに好きだったんだと思う。でも互いに不器用で、綺麗にその矢印がすれ違ってしまっていた。
真田君「正直、俺が甘えた……てっきり通じてると思った。俺の『好きな人いるよ』は……君の事なんだって……だから……。」
今ってもう外で大雪が降ってたんだっけ?というくらい、ヒヤリとした空気が流れる。
ラウンジの自動販売機のごぉーーーという音が聞こえるほど、重く、えもいえぬ静けさだけが僕たちを包む。
その空気を打ち破ったのは角山君だ。
角山君「まあ……しょうがないんじゃないか?互いに友達であると強調しながら、今まで一緒にいたのが良くなかったな。」
僕「僕も……角山君の言う通りだと思う。またきっと新しいチャンスは訪れるよ。連絡も取らなかったのならどうしようもないし……。」
既に僕と角山君は諦めムードだ。言うべきか迷ったけど、櫻子さんの純粋な気持ちを振り回した真田君に非があり、自業自得であったように見えたのも大きい。ショックな状況の後だし、とても言えなかったけど。
しばらくの沈黙の後、真田君が消え入りそうなか細い声を出す。
真田君「……一応連絡してみたんだけど……俺がこれからやり直せる道はもう……ないのかな。」
暗い顔をする真田君に、僕と角山君は何か声をかけたかったが、かける言葉を見つけられないでいた。
授業を終えて、次の授業まで暇だから角山君の家でドンキーコング64のコングバトルでもしようかと話しながら大学を後にする。
僕「真田君も来る?」
負のオーラを纏っている真田君にあれから初めて声をかけた。
真田君「……あぁ、悪い。」
心ここに在らず、と言った様子の真田君が、スマホを見て目を見開いた。
真田君「返事が来た!」
僕も角山君も振り返って思わず硬直した。
真田君「……『今日これからなら会えるけど、明日から実家に用事があって帰るんだ』って……でも俺、今日バイトあるんだよなぁ……。」
僕「行けよ。」
人の恋路に口出しなんてしたくない。だけど思わず僕の口からこの言葉が出てしまった。
僕「行けよ。バイトも休めばいいじゃん。授業も出席したことにしとくから。さっき『またチャンスは訪れる』って話したけど、こんなチャンスなかなか無いよ。」
角山君「俺も今日は行くべきだと思う」
角山君は、何か検索していたらしいスマホの画面を真田君に見せつける。
角山君「今日は大安だぜ」
行ってくるよ、と言って振り返らずに走って行く真田君の背中を、僕と角山君は見向きもせず、見送った。
結局、真田君は櫻子さんに会って、無事に想いを伝えられた。そして、めでたく付き合うことになった。
真田君は会って開口一番、いきなり「俺が好きなのは櫻子さんなんだ!!!」と叫んだらしい。路上で。天下の往来で愛を叫ぶ男。
櫻子さんは「私も……私も好きです…!!」と、泣きながら真田君に想いを伝え、2人は抱き合った。何なんだそれは。青春過ぎる。
バイトを休んだ理由も、家族が亡くなった事にしたのに既にバレており、「2人が付き合えたんなら!」「本当に良かったねぇ」とか周りにニヤニヤされっぱなしだったようだ。
真田君「とにかく、お前らが背中を押してくれたおかげだと思う。ありがとうな、ほんとに。」
僕「興味ないな。」
角山君「ああ、俺たちは今ドンキーコング64にハマっているんだ。興味あるわけが無い。」
そう言いながらも僕と角山君は内心「クソが〜〜〜〜〜!でも良かったね」と思っていた。今回の真田君と櫻子さんのトラブルに対して、全く説得力が無いレベルで本当の気持ちを伝えられてない。
けれど、真田君にはその想いも汲まれていたようだ。幸せそうに微笑んでいる。
角山君「ふん…嬉しそうな顔しやがって、ほんとにむかつく野郎だ。」
角山君は思わず、悟空が魔人ブウを倒した時のベジータの台詞を吐いていた。
自分の知ってる人でも知らない人でも、他人の恋路に興味は無いって人も多くいて、もちろんその考え方は尊重されるべきで、否定すべきものではない。
僕もそのスタンスを取るつもりでいた。他人の恋路なんかに口出しして、嫌な方向に転がったら当然バツが悪い。
それでも、その責任の一端を僕が背負ってもいいくらいに、あの時の僕は真田君の背中を押したかった。
真田君はあの時落ち込んでいて、自暴自棄にすらなりかけていた。だけど、彼らが仲睦まじく楽しそうに遊んでいて、それを真田君が嬉しそうに話していた時の事を思い出すと、言葉をかけられずにはいられなかった。もしかしたら届くかもしれないチャンスを、諦めて欲しくなかった。
成功しても、失敗しても、僕は真田君とは友達なのだから。
それからの真田君は、冒頭で「チー牛」なんて例えたのが嘘みたいに、見た目も痩せてどんどんカッコよくなっていった。人と付き合ったりすると、というか好きな人が出来ると、人ってこんなにも変われるんだね……と驚いた。
彼らはもはや付き合ってから7年とかそこらになる。小学生が入学して卒業してしまうぐらいだ。
僕も年1、2くらいで2人ともと会っているけど、いつまでも仲が良いなぁと思う。運命の出会いだったのだろう。ほんとにむかつく野郎だ。
正直いつ結婚するんだろうと思うのだけれど、別に彼らの背中を押す必要なんて無いかなと思う。
真田君は僕のTwitterの笹垢も知っているので、この文章を読んでいるとするなら、一応伝わって欲しいなと思う事がある。
真田君の誕生日は11月7日だ。僕と誕生日が近かったのでよく覚えている。
今年の11月7日は、大安だぜ。
フルマラソン走った時の話
稲穂もずいぶんと頭を垂れて、秋の香りが漂う夕方に、僕は仕事を終えて駅のホームで電車を待っていた。
有人駅ではあるけれど新潟の田舎にあるこの駅は、昼間にはホームにあまり人が見当たらないが、朝か、今みたいに夕方になると、通学する多くの学生で賑わい始める。
「まだまだ暑いね〜……」
職場の先輩がため息をつきながらアイスをちろちろと食べていた。この人が「てかアイス食べた〜い」とか言ったせいで、僕は自分の乗る電車に乗り遅れてしまった。先輩の乗る別方向の列車はもう間もなく来るので、完全に僕だけが損をした形になる。
まあ……先輩は綺麗な人なので、横顔を眺めながら話をするだけでも最早嬉しいんだけども、と少し思ってしまっている。
「こんなに暑いのに、僕明日フルマラソンなんですよ」
「えっ!!?もう明日なんだ!大変だね」
先輩は完全に他人事だった。その後に一応「頑張って〜」とか言ってくれた。
夕日の光をあちらこちらに跳ね返しながら、先輩の乗る列車がホームに到着しようとしている。
「あ、もう来ちゃった……。これいる?」
そう言って先輩は食べかけのアイスを僕に差し出して来る。
まじかよ。
え、そんなのって……いやでも何も考えてないのか……?これは一体……どういう……!とか色々迷いながらも、首はコクンと縦に動いてしまった。
そうすると先輩はもがー!とアイスを勢いよく食べ切り、残ったアイスの袋と棒をパシっ!と僕に押し付けて、開いたドアに向かって走り出した。
あっ!と思ったが僕は先輩の乗る電車とは別方向なので、思わず立ち尽くしてしまう。
振り返った先輩はアイスを勢いよく食べすぎて「頭いて〜」みたいな表情で口元を抑えつつ、ドアの閉まり際、ゴミを持ったまま呆然と立ち尽くす僕にひらひらと手を振った。
先輩には敵わないな……なんて思いながら、手を挙げて先輩の乗る電車を見送る。
引き続き僕が乗る方向の電車を、赤とんぼが飛び始めた駅で、ベンチに座りながら待つことにする。アイスの棒と袋は普通に捨てた。
翌日、空が白んで来た早朝に会場へ向かう。
よく寝たし、体調もバッチリだ。あんまり練習は出来なかったけど、とりあえず完走は絶対するぞ!そんな心意気だ。
実はと言うと僕はもうフルマラソンは2回目で、1度走った事がある。しんどすぎてもういいかなと思っていたが、大学の友達に誘われてもう一度出る事になってしまった。
その大学の友達と、もう1人出ると言っていた高校の友達と待ち合わせる。2人は初対面だけど、互いに「別に良いよ」と言っていたので、3人で開始前は一緒にいることになった。
待ち合わせ場所に向かうと、まずは高校の友達に会う。
上田君「元気だったか〜!?」
元気だったか?と聞きながらめちゃくちゃ元気だ。高校の時、僕には違う人格が宿っており、僕自身もやけに明るかったし、高校時代の友達には上田君みたいな陽キャな人が多くなった。
うい〜とか言いながら周囲を見ると、近くに大学の友達もいた。
角山君「う〜す」
クールな奴だ。めちゃくちゃサッカー部みたいなかっこいい見た目なのに、中身はかなりの陰キャというアンバランスさが面白すぎる男。64のゲームがあまりにも強く、こいつを倒す為にドンキーコング64のコングバトルの一戦に1時間を費やすという事態が発生してしまったぐらいだ。
というか、社会人になってから暫く会わないうちに、何か体格がおかしくなってるような……?
角山君「雨の日とかスポーツセンターのランニングマシン使ってたんだけど、懸垂にハマりすぎて上半身がバキバキになった」
角山君は何か、どう形容しようとしても逆三角形どころか、漏斗みたいな見た目になっている。これで走ったら間違いなく膝を壊すだろう。

漏斗
その様子を見て上田君は爆笑していた。
こうして、陰と陽を織り交ぜた陰陽太極チームはフルマラソンに挑戦することになったのだった。
新潟のビッグスワンスタジアムをスタート地点として開催される、新潟シティマラソン。例年ビッグスワンスタジアムをスタートし、新潟の至る所を回って、ビッグスワンスタジアムに帰ってきてゴールするルートだ。
今年は僕が1回目に走った時とは違うルートらしかった。トンネルを通る必要がある。大人数でトンネルなんか通って大丈夫なんだろうか……?とりあえずやってみなくちゃ分からない。
僕ら3人は待ち合わせさえしたものの、互いのペースは恐らく全然違うし、集中出来なくなるかもということで最初から別々の位置からスタートする事にした。僕は自信が無かったので、最後部からスタートする事にした。
スタート前という事で、日本文理高校ダンス部のパフォーマンスや、Qちゃんこと高橋尚子さんの挨拶が行われた。高橋尚子さんって有名人なのに、陸上やってると見る機会がまあまああるので、何だかそんなにレア感が無い。いやレアなんだけど。
頑張るか〜なんて思いながら足を伸ばしていると、隣にいたショートヘアの女性が両手でパチッと頬を叩いていた。顔色が悪そうで、華奢な、これから42.195km本当に走れるかい……?という印象だ。
「頑張るぞ、頑張るぞ……」
口元でそう唱えていた。気合いは充分らしい。
とはいえ見た目で判断しては行けない。長距離を走るのであれば体重は軽い方が有利だ。世界陸上や、マラソンや、駅伝なんかをみても、短距離の選手と比べて長距離の選手は細いイメージがあると思う。あれは合理的にそうなっているのだ。
顔色が悪いのは心配だが、結構やる人なのかもしれない。少なくとも漏斗みたいになっていた角山君よりは走るのに向いてそうだった。
「それでは準備はいいですか!?よーい……スタート!!」
ゲストで来ていた新潟の地元アイドルであるNegiccoが発したのか、高橋尚子さんが発したのかもよく確認できんまま、フルマラソンがスタートした。
〜10km地点
以前のフルマラソンの経験から、そんなにスピードをあげず、いつものジョギングのペースで無理せず足を進めていた。
スタートしてからこれでもか!というくらい、新潟感のある太鼓やら祭囃子やらが連続で展開されていた。応援ということで悪い気はしないけれど、ただジョギングしててまだ疲れてもないのにこんなに応援されるのも何かむず痒い感じがする。イベントというか、お祭り感を味わうという点では凄くいいな、と感じた。
シティマラソンとなると一応イベントという事になるので、コスプレをしている人も沢山いたし、沿道にもずっと応援する人が立って、知り合いに声をかけたりしていた。
僕の知り合いは特に来ていないので、そういうのいいね、なんて思った。
魔法使いみたいな帽子を被っていたり、プロペラがついた帽子を被ったり、そういう分かりやすい目印がある人は知らない人にまで応援されていた。そういうのもあるのか。
自分は何の遊び心も無い格好だったので、ちょっぴり悔しかった。
〜20km地点
意外と快活だな、なんて思った。良いペースという事だろうか。
以前はこの辺りでまだ半分も行ってないの〜!?と絶望した覚えがあるのだけれど、そうでもなかった。
しかし、ここでついに懸念していたルートに入る事になる。
そう、トンネルだ。
トンネルに入って、折り返し地点を折り返して、またトンネルに入るというルート。道も狭いし、今の時代じゃ考えられないくらいに人が過密する地点になる。
結果から言うと、トンネルは激ヤバだった。
中に篭もる人の熱気、湿気、そして屋根のあるトンネル内に人が過密したことによる空気の薄さ、その全てが良くなかった。
正直キツイな……なんて思っていると、目の前にアイアンマンが現れた。
どういう事?と思われるかもしれないが、紛れもなく、エンドゲームしていたアイアンマンだ。
さっきコスプレしてる人もいるって話をしたけど、せいぜいカエルとかポッチャマみたいなキャラクターで、全身着れるスウェットみたいなやつを着る程度なのに、本当にアイアンマンのコスチュームを着用している人が現れたのでかなり驚いた。
僕が折り返して来た道(反対側)を走っていたアイアンマンからは、カポ…カポ…みたいな、風呂桶みたいな音がした。
流石にプラスチックだよな、とは思ったけど、アイアンマンは見てわかるくらい前傾しており、完全にゼェゼェだった。
あのスーツ、最後まで脱がないつもりなのかな……と思いながらも、その横を通り過ぎた。
〜30km
ここまで来るとさすがに、どんなにペースを調整してたとしてもしんどくなってくる。
フルマラソンをしていると給水所みたいなのが数kmに一度はあって、スポドリや水の他、バナナやトマトも置いている。

ぽっぽ焼き
黒糖蒸しパンみたいなやつだ。僕はせっかくだからとこれを毎回給水所で食べていたんだけど、これが失敗だった。
普通に腹が重くなってきたのである。何本ぽっぽ焼きを食べたかは分からないけれど、毎回食べていたので多分10本いかないくらいは食べている。これはまあまあハードだった。
ただ周りの人も完全に疲れ切っていて、そもそもそういうもんなのかもな、と思いつつ、ペースを乱すことなく歩を進めた。
30km地点が見えてくる。ラストスパートだ!なんて初見では思ってしまうが、前回の経験から「思わない方が良い」と知っているので、こっからだぞ!と自分を奮い立たせた。
途中高橋尚子さんがいたのでハイタッチした。ハイタッチしたけど高橋尚子さんだと分かったのは通り過ぎてからだったので、惜しい事をしたなと思う。まあレア感は無いからいいか。いやレアなんだけど。
〜35km地点
さっき30km地点で、ラストスパートだ!と思わないようにしたのには理由がある。
32.195km地点。
ここで見る看板が、「あと10km!」なのである。
10km、それは走るとしたらまあまあキツイ距離である。普段でも10km走ったら「まあまあ走ったな」とかなり満足感が得られるような距離だ。
それを、ほとんど限界を迎えている時に見てしまう事になるのである。前回はここで「あと……10km……!?」と絶望してしまった。
体感的には、30km地点で「あと10km」なんだけれど、そこから2.195km走ってから見る「あと10km」は、結構来るものがある。経験してみないと分からないかもしれないが、本当に、かなり来るものがあるのだ。
僕はこれをスルーは出来たものの、身体はかなり限界を迎えていた。
足が重くて、膝が上に上がらず、うまく前に出すことが出来ない。
こんな状態じゃペースは上げられないな、ぐらいに思っていた、その時だった。
バチンっ
そんな音が聞こえた気がして、気がつくと僕は転んでいた。
足に激痛が走る。感覚で攣ったと分かった。ふくらはぎがものすごい勢いで張っていた。
とりあえず道の真ん中にいたら邪魔なので、沿道に避けようとする。
もう片方の足で身体を押そうとした時。
バチンっ
何と、もう片方の足も攣ってしまった。
激痛に喘ぎ、沿道で転がりながら両方の足の筋肉を伸ばす。
呻きながら沿道に転がっていると、声をかけられた。
「大丈夫ですか?救急車とか呼びましょうか?」
40代くらいの、恐らく応援に来られた女性に声をかけられる。
いえ、足を攣っただけなので大丈夫です……と返事をしながらも、ここから10km近く走るのか、という絶望感。早くしないと足切りタイムに間に合わない(別にまだ余裕だったが)、という焦り。足切りとなると強制的に競技を終了させられることになる。
早く走り出さないと、という強い思いと、強い思いに反して動かせない足。
ここでもう終わりか……と、僕は通り過ぎていくジバニャンのスウェットを着たランナーを眺めつつ、曇り空の下で途方に暮れてしまっていた。
〜42.195km
何故かは分からないが、僕は全力で走っていた。
両足を攣ったなんて正直とんでもない事だ。どう考えたってもっと休んだ方が良い。
両足を攣った状態からよろよろと立ち上がった後、最初はとりあえず1歩ずつと、足をとにかく前に進めることにした。
それが気がついたら全力で走っていた。もう足の痛みとか、疲れとか、呼吸の乱れとかの全ての感覚が吹っ飛んでしまった。完全にランナーズハイになっていた。
もうすぐ終わってしまう……!そう思いながら、疲れ切ってふらふらになっている他のランナーの背中を、自分でもびっくりするくらいのスピードで次々追い抜いていく。
途中、さっき足を攣った時に追い抜いて行ったジバニャンすらも追い抜いてしまった。
ジバニャンを追い抜くと「おお!!頑張れよ〜」とか言ってくれた。とても後ろを向く余裕は無かったので、片手を挙げて応えた。
沿道にはものすごい数の応援の人がいた。知り合いを応援する為か、ただの通行人かはわからない。でも何だかその応援が自分に向いているような気すらしてしまった。
というか、周りと比べて自分が尋常じゃないスピードで走っていたので、頑張ってる感がより目立ったのだろう。気の所為じゃなく、明らかに応援が自分に向いていた。
「おおー!!すごい!」「がんばってー!!」と、色んな人達が応援してくれた。まるで自分が主人公になったかのような気分になれる。
僕は足を前に投げ出すように走りながら、走馬灯のように色々な事を思い出していた。
高校の時、陸上部で部活中に怪我をしてしまい、実質選手生命が絶たれた事。
落ち込んでいた僕を、同じクラスだった上田君が励ましてくれて、放課後遊んでくれた事。
大学の時、流石に運動部には入れないけど、ジョギングだけは続けようとした事。
「俺も一緒にやるぞ」と、大学の同期の角山君が一緒に走ったりしてくれた事。
結果、今までやってきた種目と全然違うのに、1度目のフルマラソンも完走する事が出来た事。
会社に入って、「特技……フルマラソンなら走った事ありますよ」と言いつつも、何か自分って得意な事が無いなと自信を失った事。
そんな僕を「フルマラソン!?凄いじゃんそれ!」と、一緒に電車を待っていた職場の先輩が褒めてくれた事。
色んな人との思い出の一つひとつが、「大丈夫」「乗り越えられる」と背中を押してくれる。
この時、自分の事を主人公だと思い込んでいた僕は、他にも色々な人や出来事を今の自分の走りに結びつけて、力に変えていた。
こんなに全力で走っているのに、息も乱れないし、足も痛くない。逆に危険な状態なんだろうけど、今止まってしまうともう動く事ができなくなる気がした。
途中、走りながら涙が流れていた事に気づく。別に悲しくも何ともないのだが、何の涙なんだろうか。走れ!進め!と自分を鼓舞し続けていたので、考える暇は無かった。
ビッグスワンスタジアムに入ると、ゴールが見えてきた。トラックを半周してゴールゲートをくぐるような形だ。
トラックの内側では、日本文理高校のダンス部の皆さんがポンポンを持ちながらランナーに手を振ってくれていた。朝からずっと働いててちょっと可哀想に思えてくる。
元々短距離側の種目だった僕にとって、トラックの半周、つまり200mは自分の距離だ。今の自分なら30秒くらいで走れると分析できる。
約4時間、その間だけでも色々な事があったけど、それもあと30秒で終わってしまう。
ペースを上げて、最後は本当の全力で走る。日本文理高校のダンス部の皆さんが気づいて「え!?」みたいなリアクションをした後、「がんばってくださーい!」と完全に僕を応援してくれていた。これは完全に僕だった。
手を挙げて応えながらも、そこから両腕を大きく振って短距離走りでトラックを走り抜ける。ゴールがぐんぐん近づいていく。足を攣っていた時の事を考えると、まるで夢みたいだ。
そして、ゴールした。
終わっ……た……────
一気に身体の力が抜けるとか、そういうことも無く、凄く冷静に、徐々にスピードを落としていく。
シティマラソンのバスタオルを広げたスタッフのお姉さんが、抱きしめるように僕を包んでくれて、そのまま僕は力なくへたり込んだ。
終わった、長かった、終わった、長かった。
そんな言葉をずっと反芻させながら、僕はぼんやりと達成感を味わうことに夢中になった。
早朝からスタートしたのに日はもう頭の上まで登っている。そのぐらい長く走ったのだ。
タイムを見てみたら5時間を過ぎていたので、自分的には全然大したことは無かった。まあ両足も攣ったし仕方ない。
待機所に行ってみると、既に上田君と角山君はゴールしており、何だかずっと昔からの仲良しだったかのように会話していた。今日会ったばかりだろ。
どうやら地元が近かったようで、そのトークで盛り上がっていたみたいだった。
上田君「ようやく来たかー!」
僕「大変だったよ……両足攣ったりして。」
疲れがどっと来た僕はまたも地面にへたり込む。
角山君「何でお前が足攣ってんだよ、足を攣るなら俺だろ。」
そう言う角山君の体躯はどう見ても漏斗だった。ホントだよ。
2回目のフルマラソンだったけれど、フルマラソンってやっぱりなかなか出来ない経験をさせてくれるものだと思った。
スタート前、ショートヘアの顔色の悪い女性が自分の頬を叩いて気合いを入れていた。
魔法使いみたいな帽子や、プロペラがついた帽子を被った人が応援されていた。
トンネルにいたアイアンマンは、ゼェゼェだった。
両足を攣った僕を助けてくれようとした人がいた。
追い抜いた僕の背中に、ジバニャンが応援の声をかけてくれた。
沿道の人達が、僕に向けて応援の声をかけてくれた。
走っている最中に出会った人達は、全員が今日初めて会って、きっとこれからも会うことの無い人達だろう。それなのにこんなに印象に残っている。
全く知らない人に、心配されたり、応援されたり、そして互いを励ましあったり、日常を過ごしていてそんな場面ってあるだろうか。なかなか無い事だと思う。
最後、ラストスパートを応援されながら走っていた時、気づかないうちに涙が流れていた。
今までだったら自信の無い僕のただの悔し涙であったそれは、今回はきっと"ありがとう"の涙だった。そんな風に思う。
42.195kmを走るだけなのに、その間に非日常の中へとどっぷりと浸かることができる。凄く貴重で、達成感のある事だ。
10km走れれば、正直42.195kmも走ることは出来てしまう。皆もこの非日常に飛び込んでみてはどうだろうか。ヒトの力、無限大。
へたりこんでボーッとしている僕に、友人達が声をかけてくる。
上田君「そろそろ行くぞ〜!」
僕「え、もう?何しに行くん」
角山君「餅焼いて配ってるんだよ。無料だぞ。俺らはもう食べたけどもう1回初めてのフリして並んでくる」
僕「最低だなお前ら」
こうして僕らは更に3回初めてのフリして焼き餅を頂き、バレて普通に怒られた。
輝きだして走ってく / サンボマスター